それにしても2011年は、アシッドハウスに訪れた何度目かのちいさな春、といった趣きだ。
一般にはニューエレクトロのレーベルと認知されていたドイツのBoysnoize Recordsがアシッドのコンピレーションをリリースし、同じくドイツのアシッドデュオHardfloorは自らの20年のキャリアを総括したベストアルバムをリリースした。UKのMike DredによるKosmik Kommando名義11年振りのアルバムも出たし、LFO、Luke Vibert、Ben Sims、Paul Macといった面子が参加したコンピレーション『Acid Relief』も配信された。
国内では、元Transonic Records・現ExT Recordingsの永田一直によるOrganizationの過去作品集があり、新興ネットレーベルCasstte Recordsがアシッド専門のサブレーベルAcid Gelgeを設立。
そして忘れてはならないのが、ハードオンリーの日本産アシッドコンピレーションCD『TB OR NOT TB』だ。
『TB OR NOT TB』は通販や委託販売も行われているが、基本的にM3という同人音楽の即売会で販売された。いまどき配信ではなくわざわざCDとジャケットをプレスしてリリースされたコンピレーション・アルバムには、いまどきソフトウェアではなくわざわざハードウェアを使って制作された楽曲が収録された。
そしてその中では、80'sオリジナル・シカゴ・アシッドハウスから90年代のアシッドトランスまで、90年代のアシッド・リヴァイヴァルの時代の空気感が再現されていた。少なくとも僕にはそう聴こえた。
本作『TB OR NOT TB be Invoked』は、『TB OR NOT TB』から半年後に届いた続編である。
主宰者のtecra氏(当時)は当初、続編はないと言っていたような気もするが、気のせいだったのだろうか、はたして続編が作られた。
高い評価を受けた作品の続編というものは難しい。それは、リスナーが前作を基準として作品の評価を値踏みするようになるし、また人というものは過去と同レベルのものを与えられてももはや納得しないというやっかいな性質を持っているからだ。
このとき作り手側が取るべき対策としては、前作とは違うテイストやイメージでお口直しの変化球を投げるか、それとも前作以上のレベルを目指して正面突破を計るか、だ。
で、どうやら彼らは正面突破することのほうを選んだようで、その結果を、他にいい例えが思いつかないのであえてちょっと伝わりにくい例えで書くとする。
つまり、仮に前作が『VITAMIN』だとすれば今作は『DRAGON』である、ということだ(ドヤ)。
今作も、疾駆するグルーヴィーなアシッドハウスからオールドスクールなシカゴ風味のトラック、はたまたレイヴィーなハードコア・アシッドまで、アシッド狂ならば誰しもニヤリとするか、はたまた雄叫びをあげるであろうトラックが収録されている。
各参加アーティストの説明は主宰者である現Jackmaster YOSHIKI氏(元tecra氏)に任せるが、皆アシッドのオーソリティーだ。前作を聴いた時も感じたことだが、ニホンにもこんなにたくさんのアシッド・メイカーがいるなんて、何とも頼もしいではないか。
なお、本作をM3で購入すると、Jackmaster YOSHIKIと909stateによるトラックが2曲ずつ収録された『TB OR NOT TB Supplement2』なるオマケCDがプレゼントされるとのこと。
M3の会場に行くことができる人は、ぜひ手にして欲しい。
また、本作と連動して、Acid Gelgeでも、本コンピ参加アーティストによる楽曲が順次公開されている。無論、配信であってもトラックのクオリティの高さは変わらずなので、どんどんダウンロードして欲しい。
こちらのアートワークは前作のコンピを踏襲していて、これまた良い。
アシッドハウスはまもなく生誕から25年を迎えようとしており、アシッドハウスをきっかけとして始まったセカンド・サマー・オブ・ラヴの熱狂からもすでに20年以上のときが過ぎた。
セカンド・サマー・オブ・ラヴをリアルタイムで体験した人たちは、アシッドハウスを含む現在のテクノやDJカルチャーを「セカンド・サマー・オブ・ラヴの余熱」などと揶揄し、または自嘲するが、実は僕たちにはそんなの知ったこっちゃあない。
アシッドハウスには今なおちいさな春が何度も到来しているし、本作を聴いてもわかるように、ニホンにも魅力的なアーティストがたくさん存在する。
そして彼らも、あなたも、僕も、言うなればセカンド・サマー・オブ・ラヴの余熱ではなく、むしろ90年代のアシッド・リヴァイヴァルの余熱を追い求めているのだ。
まだだ、まだ終わらんよ。
びびんば(acid over the rainbow)